不在の劇場

メモ書き

【雑文】なろう系のズラしの文化

 なろうについて、もう何かを口にしてもよい頃だろうと思う。学生の頃から読み続けていたが、いつの間にか読み切れないほどの作品が漫画化し、観きれないほどの作品が映像化された。そこにあるのは昔ながらの作品ではなくて、ある種の文脈にそった作品群だ。そして、それらはなろう系と揶揄され続けている。そして、その流れは今は亡きにじふぁんに続いて、ハーメルンという二次創作サイトまで連綿と続いている。
 それらの作品群を語る上で外せないのが、先述した「文脈」の存在である。作品が作品である以前に、なろう系という「文脈」を汲んでいることが絶対的なルールとなっている。
 今回は、今アニメ化されているぐらいまでの文脈とジャンルと呼ばれるものを含めてわたしなりにまとめてみたものである。もちろん、コレが全てだ、と断定するものではなく、一読者としてそういう「流れがあった」として捉えて貰えると嬉しい。

 ■何をなろう系と呼ぶのか?
 「主人公=読者として人生(セカイ)をリセットし、「何かの能力を得て」作品全体が主人公を気持ちよくさせようとする作品」という風に今回は設定したい。
 なろう系のアニメを観ている方にとっては違和感があるかもしれないが、投稿されている作品の多くは「主人公=読者」となるように設定されている。(ある人は「主人公=作者」という風に言う人さえいる)なろう系の主人公の大半は、読者が期待する通りに行動し、読者の期待する主人公であり続けることで読者を喜ばせる。そういう意味で、オリジナルな主人公が自分の好きな作品で活躍するにじふぁんやハーメルンも同じ「文脈」を持っていると言える。(そのため、登場人物間の関係性を重要視する二次創作コミュニティやサイトに持って行くと必ずといっていいほどに叩かれる。)そういったように、なろう系には「主人公=読者」の文脈が埋め込まれている。
 ライトノベル系と異なるのは「人生をリセットして何かの能力を得る」という点が最重視されている点で、現実の延長線では幸せになれないことが大前提に置かれている。そのため、なろう系からは「青春」や「恋愛」といったような「時間」が必要とされるジャンルがほとんど台頭しない。基本的には、「人生」「セカイ」「評価基準」などがリセットされて初めて活躍できるのがなろう系という作品である。そのため、活躍するのは少年少女であっても、リセットされる前は社会人や大学生・・・・・・なんてことがまかり通るのである。
 次にざっくりとしたなろう系の流れとよく見たジャンルを読者視点でまとめていく。
 
 ■なろう系という二次創作
 なろう系の基本構造は、「一部の舞台設定が流行る」→「誰かが一部を変えて投稿する」→「その舞台設定を否定するものが投稿される」というようなサイクルでできあがっており、ある意味では二次創作のようなものと考えている。そのため、ジャンルとしてはある程度まとめやすい。
 ※ここで指す「二次創作」とはオリジナル主人公が登場するにじふぁんやハーメルンの系列にある「二次創作」であり、「夢小説」や「コミケ」などで描かれる二次創作とは別物になります。

 0・ファンタジー小説
 (わたしが見始めた)最初期の頃は転移も転生もなく、ただファンタジーの世界が広がっていた。当時の感覚では、ライトノベルとそう大差ない設定の作品が転がっていたように感じる。この時よく見た設定としては、「基本属性とは異なる属性(ゼロの使い魔の虚無のようなもの)」を始めにした「ぼくの考えた最強の能力」をベースにして展開される物語が大半だったように思う。そして当時の設定で流行っていたのは、いわゆる「追放系」というもので、元々は貴族だった主人公が追放されて最強になって帰ってくる・・・・・・というもの。追放先で才能に目覚めて(あるいは努力をして)最強になった主人公が
実家に復讐をしたり、学園に通ったりする。当時、涼宮ハルヒが流行っていた関係か、やれやれ系や無気力系の主人公が多かった気がしている。また、舞台設定も「学園」が多かったように思う。残念なことに、このタイプの作品は今のなろう系の文脈から
少し外れた、純然たる俺TUEEE系のためか、アニメ化されていないことが多い。 
 
 1・異世界転移
 ファンタジー系の後に流行し始めたのが異世界転移系の作品。このあたりから本格的になろう系が始まってくる。歩いていたら・路地裏に入ったら・扉を開いたら・目を覚ましたら・・・・・・様々な状況で、主人公は異世界に転移し、主人公が特殊な力で世界を救ったり救わなかったりする。ここでなろう系の種とも呼ぶべき「主人公=読者」の構造が現れ始め、いかにして主人公を活躍させるのかが様々な手法で更新され続ける。
 「最強の能力」をズラして、「特定領域に特化した能力」に。さらにズラして、「知識や知恵で活躍する能力」に・・・・・・といったように、活躍する軸を少しずつズラして差別化が図られていった。「能力」の次は「立場」がズラされていった。主人公一人での転移では「ご都合主義」が過ぎるとして、複数人が転移され、クラスが転移され、日本が転移され・・・・・・と範囲をズラし、主人公を異世界でモブキャラの立場にズラしていった。(ただし、活躍するのは主人公)
 こういった「能力」や「立場」のズラしをしながら、「転移」という手法が展開され、「転生」へと繋がっていく。

 2・異世界転生
 順序で言うと、転移と転生に大きな差はなく、転移のズラしの過程で生まれたのが「転生」だとも言えるし、その発展方法は転移で記載した「ズラし」の文脈と大差はない。ただ、その多様な転生方法と二次創作に繋がる流れにだけは触れておきたい。
 転生方法には馬鹿にされるほどに多様なものがある。大分すると「巻き込まれ」「救出」「偶然」に分けられる。巻き込まれ系は人の一生を司る何か(例えば、蝋燭、本、書類)などを神様が誤って破損してしまうことで死んでしまい、そのお詫びに転生させあげるというもの。救出は誰かを助けるために死んでしまうというもので、「転生トラック」としてよく揶揄されている。(これを揶揄しているのが、このすばの転生)そして「偶然」は特に特別な理由はなく選ばれたというもの。これほど多様な手段で転生するのは、多くの作品で主人公が転生するため、「この展開はもう見た」というのを避けるためだと思っている。
 転生が飽きるほどに広まったのは「二次創作」も一つの要因ではないかと思っている。というのも、初期のなろうでは二次創作も投稿されていたからだ。
 一応の流れだけ触れておくと、①なろうに二次創作の規制がなかったため普通に二次創作が投稿される②投稿数が増えた関係か「にじふぁん」が作られ、二次創作と一次創作が分けられる(一部作品は、なろうでそのまま投稿可だった?ので、東方projectや恋姫などの作品は未だに残っている)③権利などの関係でにじふぁんが閉鎖④ハーメルンや暁、Arcadiaなどに移転・・・・・・といった経緯があり、なろうと二次創作には少なからず縁がある。
 そこで繰り広げられる二次創作は「作品」に「異物」を入れたらどうなるか?がほとんどで、それを実行するために「転生」という手段が(特に特殊な力を使う場合には)一番都合が良かったのである。
そういった背景もあり、「転生」がなろう系で幅をきかせていったように感じている。

 3・現実と異世界
 ある程度「転移」と「転生」を通じて特殊な力を出し尽くすと、今度は「異世界」にとっては「現実の世界」の方がチートなのでは?ということから、現代の科学やら知識やら技術やらを使った作品が多く現れ始め、転移でも転生でもなく「異世界と現実をつなげてしまおう」とする作品が現れる。つなげる方法は「特別な端末(ECサイト)」や「夢」、「扉」など様々だが、手元にあるもので活躍する等身大なものに落ち着いていく。
そして、異世界転生であっても「異世界から異世界」といったような主人公の強さが降って湧いたものではなく、妥当性があるものが求められるようになっていく。
 
 4.ジャンル化
 「異世界」「転移」「転生」などが一巡すると、そこの手法のズラしから「ジャンル内」でのズラしにシフトし始める。例えば今でこそ人気な「悪役令嬢」だが、これも「現代の人が転生・憑依する」とか「悪役令嬢自身がやり直す」とか「悪役令嬢が追放された後を描く」とか「悪役主人公が本来の主人公の立場に成り代わる」とかそういう同じ舞台での設定のズラしを行いジャンル化されていく。そのほかだと「追放系(主人公が不要な存在としてパーティから追放される)」や「スローライフ(戦闘よりも生活に重点を置く)」「現実そのものの転移(お店を転移させる)」もジャンル化されつつある。

 といったように、現在では狭い範囲でサイクルが回ってきているように見え、新しい視点が生まれない限り、こうしたジャンル内でのズラしを中心とした作品展開がされていくのではないかと思われる。

 ■なろう系の終わり
 「異世界転生はもう飽きた」と言う言葉を耳にする。設定をズラして発展してきたなろうというセカイではもう新しいものは何も生まれない。なぜなら、「同じような違うもの」を読者は求めており、完全な新しいものは、なろうにはなり得なず、形を変えた縮小再生産が繰り返される。その先でなろう系は解体されて、ライトノベルが再構築される。
 
 ■なろう系雑感
 これを書くと方々に怒られそうだが、なろう系とはコピペの文化になりつつある。学生がインターネットの文章をコピペしてアレンジを加えてレポートにするように、文脈をコピペしてアレンジ(設定)を加えて作品に仕立て上げる。そういう文化があの場にはある。なじみのある展開だからこそ書きやすいし、読みやすい。書きたい内容のためにテンプレを使うのは悪いことだろうか。