不在の劇場

メモ書き

【ゲーム】マブラヴ_あいとゆうきのおとぎばなし

物語の始まりは、「御剣冥夜」という一人の少女が現れることから始まる・・・・・・とかそういうマブラヴの導入の話は他のサイトで見てくれたらいいし、そういう導入が必要な人はここから先は見ないでくれるとうれしい。ネタバレだらけなので。
 
0.【ゆうき】弱い自分と秘めた想い
 
 物語の軸には人間の「弱さ」というものが取り上げられている。EXTRAでは、少女達が内部に抱えている弱さを主人公が攻略するようなもので、よくあるラブコメだと言われればその通りのものである。(委員長のストーリーだけクリアしていないので、それがどうなのかわからないが)UNLIMITEDでもまぁ、似たようなもので主人公が彼女たちを攻略することが中心になる。で、逆に最後のALTERNATIVEでは、主人公の弱さが物語によって攻略されるようになる。
 
 つまりこの作品においては、物語の上で与えられたキャラクターの「弱さ」と呼ぶべきものを「乗り越える」ことで「自己を確立すること」がすべての根幹にある。
 
 そういう意味では、「御剣冥夜」や「BETA(世界)」は弱さを抱えたまま歩き続ける人間に対して「革命」を求める悪役/破壊者である・・・・・・とすることは否めない。仮初の幸せを許容せず、本当の幸せを求めることを強要する。
 
「・・・・・・これまでと同じ日常を延々と続けることに価値はあったか?」
「・・・・・・・・・・・・」
「形はどうであれ、彩峰がそなたに本気でぶつかってきたのだ。
大きな前進であろう」
「そりゃ、そうだけど・・・・・・・・・・・・別の感情にしてほしかったぜ」
「欲張りな奴だな。
・・・・・・であれば、もっと上手に立ち回ってみせればよかったであろう」
「・・・・・・それができればやってるよ」
「ならばそれでよいではないか。
タケルはタケルであろう?」
「・・・・・・そう・・・・・・かぁ?」
 
 これは、EXTRA彩峰√の御剣冥夜の台詞である。
 自分の気持ちに嘘をついてまでそのまま(日常)を続けることに意味があるのかと、白銀武に問いかけるシーンにもあるように、白銀武に正しい変化を求めている。この台詞を言ってしまえる冥夜のすごいところは「自身にもその変化を強要する」ところだ。このシーンでもし、冥夜がわざわざ白銀武の本心に気が付かせなければ、白銀武が自分の手元に転がり込んでくる可能性があったにもかかわらず、「白銀武をあきらめる選択」を取っている。そういうところがすごく好きだったりするんだ。
 
「貴様の不安はよくわかるよ。
 だが、人間の成長には終わりはないし完成することもない」
「だから今の貴様のように、同じ事を繰り返している様に思える時が、この先何度もあるはずだ」
「だが、自己が確立している者は、同じような事を繰り返していても、確実に成長し、次の段階へ進んでいく」
「だが、自己が確立していない者は、本当に同じ事を繰り返し、全く前進しない」
「自分の事もまともにできない者に、責任を持って他人の面倒を見る事はできないだろう」
「自己が確立できていない者には、公の要求に応える責任を負う立場に立つ資格はないんだよ」
「神宮司軍曹や伊隅大尉、そして速瀬中尉のような立場になることは許されないんだ」
「だが、貴様は自己を確立したんだ。
 速瀬中尉のように、感情を押し殺し、存分に悩み苦しめばいい」
「その苦しみは、必ず貴様をさらなる高みへ導くだろう。そこに向かって進めばいい」
「その時大切なのは、自分を理解してくれる人間だよ」
「貴様を理解してさえいれば誰でも良い。付き合いの長さや深さ、年齢性別は一切関係ない」
「貴様の弱音に耳を傾け、必要な時に苦言を呈し、道を誤れば躊躇無く殴り倒してくれるような人間であれば、誰でも良いんだ」
「そうだな。『尊い存在』というべきか・・・・・・」
 
 これは、Alternative宗像中尉の台詞。
 BETAが作り出した戦場という世界で繰り返し語られる内容である。
 プラスの世界からマイナスの世界に落とされた白銀武に「成長」という言葉を当てはめるのが正しいのか、という問題はある。あるのだが、「成長=自己を確立する=意思を強く持つ」と考えるのであればこれはこれで成長の物語であるとしてもよいだろう。もちろん、その強度を試すかのように方々から死を与え続けられるのはどうかと思うが。
 
「ああ・・・・・・とうとうオレは・・・・・・おまえの男になるよ・・・・・・」
この世界で生きていく意味を・・・・・・見つけてしまうことが恐かった・・・・・・。
あっちの世界に帰れなくなってしまうことが・・・・・・恐かった・・・・・・。

 

 これは、UNLIMITED白銀武の台詞。

 BETAのいる、鑑純夏のいない世界で生きていくことを決意したシーン。

 ストーリー的にはどの√も焼き直しばかりでアレだったのですが、このシーンはAlternativeよりも好きでした。

 

 と、上記に羅列したのは一部分にはなるのですが、こういう「弱さ」を乗り越えて「想い」を遂げるのがマブラヴの根源にはあったりする・・・・・・というのが私の感想。そして、その遂げられる想いが、愛が、一つの方向を志向しているのはちょっと気味が悪い。

 
1.【愛】 幸福の意義など考えずに、ただキミに穏やかであってほしいと身勝手にも願ったのだ。
 
「・・・・・冥夜」
「おまえには、感謝してるよ」
「・・・・・ん?」
「これ言うのはずるいのかもしれねぇけど・・・・・・・・・・話きいてくれたこと感謝してる」
「・・・・・タケル、それは違うぞ」
「冥夜?」
「私がそうしたかったのだ・・・・・それをこの短い期間に教えてくれたのは、タケル・・・・・そなただ」
「・・・・・オレ?」
「そして鑑たちも・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「それがわかってしまったから、こうしてここでタケルといるのかもしれぬな」
 
 これもEXTRA彩峰√の御剣冥夜の台詞で、彩峰への想いを確立させた白銀武が「御剣冥夜の想いにはこたえられない」と伝えるシーン。この一連の流れでわかることは、「自分の想いを遂げること」よりも「相手が幸福になること」に御剣冥夜は重きを置いているということである。もちろん、彼が幸せであるときにその隣にいるのが自分であればそれ以上にない幸福であるが、それよりもまず先に彼に幸せであって欲しいと願っている。その関係性はとても尊い。彼女の夢は、多分、「私が彼の幸せを願い、彼が私の幸せを願ってくれる」という関係性だ。互い互いに幸福を補完し合う関係性。それが彼と彼女の理想型だと思う。それこそが、絶対運命という絆だ。
 UNLIMITEDでもそれは同じだ。お互いにお互いが生き残ることを幸福と思っている。自分が生きることよりも想い人が生きていることを望んでいる。Alternativeでいう公と私が高いレベルで実現しているものではないが、そうである必要なんてもちろんなく、「民でもなく、戦友でもなく、自分の愛する人に生きてほしいと身勝手にも願う」その在り方がとても好き。――どこにあっても、私たちの魂は一つだ。よいな。
 
 そして、その在り方を一番気持ち悪い形で実現したのがAlternativeである。公と私を高いレベルで実現することをキャラクター達に強要するストーリーであるせいで気持ちの悪い構図になっているような気がしてならない。EXTRAやUNLIMITEDでは、お互いがお互いを補完しあう関係であったが、Alternativeでは基本的に想いは補完されない。自己犠牲的に見える彼女たちの行動は仲間(想い人)が幸福になるための行動であるにも関わらず、それを世界の幸福にまで敷衍させる気持ちの悪さと、それをすべての人間の死でもって示すことの気持ち悪さの両方がAlternativeでは実現される。
 御剣冥夜の最後のシーンを賛美するような声を聴いたような気がするが、アレは特段特別なシーンじゃないと思っている。EXTRA彩峰√で「許すがよい、私とて弱さを持ち合わせているのだ」と言ったシーンやこれまでの冥夜の行動から考えたら、弱さを見せることもああいう行動をとることも別段特別な選択ではなかったように思う。……Alternativeでも、EXTRAでも、UNLIMITEDでも、御剣冥夜御剣冥夜だった。であるとすれば、Alternativeでわざわざやることって何かあったの?
 
2.【おとぎばなし】ハッピーエンドのそのまた後のこと。
 Alternativeに話される内容は、EXTRAでも、UNLIMITEDでも得られるものだった。
 その上、Alternativeでは最後に記憶もなくしてすべてが0に戻され、あの世界はなかったことのようにハッピーエンドが訪れる。なら、この世界は何のためにあったのか。……それは、お前ら(プレイヤー)のためにあったんですよ。(余計なお世話だ)
 
とてもちいさな、とてもおおきな、とてもたいせつな、 あいとゆうきのおとぎばなし
 
 おとぎばなしは、誰かに聞かせるために存在しており、その誰かとはこのゲームをプレイするプレイヤーである。そして、プレイヤーに感じ取ってほしいことと言えば、「あい」と「ゆうき」に他ならない。異なる世界を重ね合わせた物語にすることでよりそのテーマを強固にしているのだ……と思う。
 白銀武が夢から覚めたように、私たちプレイヤーも「あの世界の物語」を記憶してゲームから離れていく。…………両者とも「幸せな世界には必要のない記憶」を持ち合わせてこの世界を生きることになるわけだが、その先にある行動はきっと前とは異なってものになっているはずだ。普通に生きているだけであれば得ることのできない何物にも代えがたい体験をすることができたはずだ。
 
「御剣として生きていたならば絶対に知り得なかった、何ものにも代え難いものを・・・・・たくさん手に入れることができたのだ・・・・・」
 
 実際問題としては、Alternativeは余計なお世話でEXTRA~UNLIMITEDで十分なものを貰っている。
 御剣冥夜のあの生き方を、他の人間の生き方を見てお前は何も感じなかったのか?
 もし、何かを得ることができたならば、それでよいではないか。
 
「・・・・・しっかりと前を見据えるがよい」
「私がしかとこの者と決めた白銀武でいてくれ・・・・・最後まで」
 
3.【おまけ①】NTRの文脈で見るマブラヴ
 本編とは何も関係のない感想ですが、マブラヴでヒロインを白銀武に寝取られる物語じゃないですか?EXTRAなんかはそれが顕著で、これまで姿も見せずにプレイヤーが自己投影しやすいカタチを取っておきながら、エロシーンなったとたんに白銀武が現れるわけですよ。これまでヒロインといちゃこらしていた「つもり」だったプレイヤーに冷や水を浴びせて、「彼女を抱いているのはお前じゃない……この白銀武だ!」と見せつけるように「「「男」」」を描くんです。エロゲーってそういうものなんですか?そうですか。そのうえ、Alternativeではプレイヤーの意思が介入する場面は一切なくなり、まるで映画のように白銀武の純夏への愛を見せつけられることになるというダブルパンチ。裏切られたうえに裏切らされるというダブル寝取りですよ。はい。
 

4.【追記】孤独

 「愛」とは「私が彼の幸せを願い、彼が私の幸せを願ってくれる」という関係性であるという風に以前は書いた。だが、そこに一言加えるべき言葉として「孤独」がある。作中……特にEXTRAでは、主人公がヒロインの「孤独」を埋めることが主軸に置かれている。(冥夜ばかりで恐縮だが、)彼女の√ではこういうセリフが出てくる。
 
 「許すがよい・・・・・・私に足りないものが、実はとても大切なものなのではないかと・・・・・・そう・・・・・・思ってしまったのだ」
「足りないもの?」
「それを得ることは難しく、そしてそれを得ようと思うことがよいのかどうか・・・・・・わからぬ」
「よくわかんねーな」
「鑑の作ってくれたみそ汁・・・・・・」
「ああ」
「・・・・・・実は・・・・・・」
「なんだ? 口ごもるなんて冥夜らしくないな」
「・・・・・・化学調味料の味がして・・・・・・あまりうまいとは思えなかった」
「そうか・・・・・・なかなかいい舌してんじゃん」
「・・・・・・とても残念だった・・・・・・」
 
 これは、御剣として生きてきた自分と、”普通”の世界で生きてきた白銀武(鑑)を比較して自分の中にある孤独を感じるシーン。いつも気丈な冥夜が自身のベッドの上で一人、膝を抱えているという絵面も彼女の孤独を強調する。最後のシーンでは孤独の象徴であった”部屋”が白銀武と過ごす孤独を埋める”部屋”になっていたのは、今思い出しても最高である。
 
 そこからUNLIMITEDになると立場が逆転して、日常と非日常のズレで物理的にも精神的にも白銀武が”孤独”になってしまう。ここにきてようやく「互いに孤独を補完しあう関係」になる。EXTRAだけでは白銀武が他者の孤独を埋める物語でしかないが、UNLIMITEDまで入ると「互いの孤独を埋めあう関係」へと昇華される。(ALTERNATIVEでは、補完されなかった鑑の孤独を埋める話=愛の話として物語が展開されているわけだ)
 
 だからこそ、物語の最後が「セックス」で終わることがいまだに理解できていない。そういうやり取りが存在していることは理解しているが、彼ら彼女らは肉体的・精神的に他人を所有したいと思ったわけではなかったのではないか……と思っている。(まぁ、理想の押し付けかもしれないが)